2019.05.31

民法の一部改正で何が変わる?!

2018年7月13日、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)」が成立し、公布されました。(法務省) 
今回は、相続に関する部分に改正がありました。
意外に身近な話かもしれませんから、改正ポイントについて確認しておきましょう。

改正内容について

 今回の改正内容については、主に以下の5つになります。

  1. 自筆証書遺言の財産目録がパソコンで作成可能になる
  2. 配偶者住居権が創設される
  3. 法務局で自筆証書遺言の保管制度を創設する
  4. 介護や看病をした親族の金銭請求権が可能になる
  5. 相続預貯金債権の仮払い制度を創設する

 

現在、既に施行されているのは、1番の「自筆証書遺言の手続きの緩和」です。
詳細については後述しますが、平成31年1月13日から施行され、パソコン等で作成した書類でも遺言ができるようになりました。
2番以降については、改正することは決まっていますが、公布の日から2年を超えない範囲で施行される予定となっていて、現在(2019年4月)ではまだ効力がありません。
以下、それぞれの内容について、簡単に説明していきたいと思います。

自筆証書遺言の緩和措置

自筆証書遺言は、全ての書類を自分の手書きで作成することになっていました。しかし、近年の書類は、大半はパソコンで作成しますよね。
要するに、昔はパソコンが普及していなかったので、手書きを前提としていたわけです。こそで、時代の変化に対応すべく、今回の改正が行われたというわけです。
今回の改正で、遺言書に添付する相続財産の目録等についてもパソコンで作成できるようになりました。
但し、財産目録の各ページに署名押印をする必要はあります。
各ページに署名押印があれば、通帳をコピーして添付することもOKになりました。遺言がしやすくなれば遺産トラブルの減少にも繋がりますから、良い改正ですよね。

 

(自筆証書遺言)
第968条
1.自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2.前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3.自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

(法務省資料http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00240.html

配偶者住居権の創設

配偶者住居権については、2020年4月から施行予定です
被相続人(亡くなった人)が所有していた家に配偶者が住んでいる場合に、親族達から家を追い出されないようにしてあげるために創設された制度です。 
相続開始時に相続建物に住んでいた配偶者は、終身または一定期間、その建物を無償で使用することができるようにしました。
この改正により、建物についての権利は、「配偶者居住権」と「負担付き所有権」に分類されます。
遺産分割時に、配偶者は「配偶者居住権」を取得し、配偶者以外の相続人は「負担付き所有権」を取得するわけです。
配偶者居住権は、住み続けることが可能になる権利なので、所有権ではありません。
ですから、第三者への売却や、賃貸借による利益を受けることはできません。
主旨としては、相続争いで追い出され、住む場所が無くなる事を防いでいると考えれば良いと思います。

法務局が自筆証書遺言を保管

改正前は、公正証書以外の遺言書は、法務局に保管できませんでした。これが、紛失や不正な書き換え問題の原因となっている一面がありました。
このような相続トラブルを抑制する効果を期待して、施行後は、法務局で自筆証書遺言の預かり業務が開始されます。今後は、パソコンを使用した遺言書の作成と合わせて、遺言手続が身近なものになることが望まれます。

親族の金銭請求権

相続人になれない親族(嫁等)が被相続人の介護や看病をさせられるケースがあります。しかし、このような立場の人達が遺産を受け取る権利は無いのが現状です。
面倒を見ている人にも、少しは相続権があってもいいと思いませんか?
このような不公平を解消するために、相続人ではない親族でも一定要件に該当すれば、金銭の請求ができるようになります。
例えば、無償で被相続人の介護や看病に貢献した場合や、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合等です。
懸念されるのは、「まさか請求しないでしょうね」という親族のプレッシャーに負けてしまい、請求を行わない人が出る事ですね。そう考えると、遺言等の手続きによって、自分の看護をしてくれる人に具体的な金額を記載してあげる配慮が必要なのかもしれません。

預貯金債権の仮払い

家族が亡くなった時、当面の生活費や葬儀費用の支払いの他、相続債務の弁済等が発生することがあります。
しかし、現行法では、これらについて相続財産からの払い戻しはできません。
被相続人に関する費用であるにも関わらず、相続人は遺産分割が終了するまで預貯金の払戻しができないという、重大な欠陥があったのです。そこで、相続人の資金事情に対応するための改正が行われることになりました。
施行後は、遺産分割前でも一定額については家庭裁判所の判断を経ずに金融機関で払戻しができるようになります。

まとめ

今回の改正内容は、とても良い改正だと思いませんでしたか?
遺言手続きが身近になる事で、自分の財産を適切に配分する人が増えます。そうなれば、介護者等も報われることが多くなり、トラブルも減りそうですね。
民法の一部改正には、2020年4月1日から施工される予定の項目も多数存在します。身近なところでは、「法定利率の改正」、「消滅時効に関する改正」、「意思能力について」、「賃貸借について」等があります。
施行の前後には、また話題となるはずですので、チェックする意識を持っておくと良いと思います。