2019.11.08

生産緑地法の2022年問題から今後の不動産市場を考える

皆さんは「生産緑地」という言葉をご存知ですか?

不動産や建設業界以外の方にとっては、もしかしたらあまり馴染みのない言葉かもしれませんね。

しかし、この生産緑地をめぐる問題が、都心部を中心にした我が国の不動産市場全体に、2022年の指定解除をきっかけに重大な影響をおよぼしていく可能性があるのです。

2022年以降、地価が下落し、マンションの価格も大幅に下落するだろうと予測する専門家もいます。そうなったら、戸建かマンションのどちらかに住んでいる人が大半を占める日本ですから、決して他人事ではなくなります。

今回は、そんな生産緑地が今後の不動産価格に与える影響について解説をしていきます。

 

【生産緑地はどのように指定された?】

そもそも生産緑地とは一体何だろう?というところからスタートします。

名称からして、「緑を増やす」ということだろうか?と思う方もいらっしゃるかもしれません。

実はその答え…だいたい当たりです。

生産緑地を定めるに至った経緯について、まずは過去を紐解き解説します。

そもそも土地には、市街化を推進するための「市街化区域」と、市街化を防止し環境・自然を守るための「市街化調整区域」という区域分けが存在します。

市街化区域は、都市の市街化を目的として指定された区域ですから、区域内の土地については、法律に違反しない範囲でどんどん「宅地化」を進めていって構わないと決まっています。

※宅地化とは、建物の敷地のことです。住宅が建っている敷地部分の土地は宅地であり、田んぼや畑は宅地には該当しません。

しかし一方で、市街化区域内だけれども、宅地化されてしまうと困る土地の所有者も存在します。農業を営んでいる人などです。

なぜなら、区域内全てを市街化してしまうと、農業を営んでいる人は農業ができなくなり、それは仕事を取り上げられることと同じで、生活ができなくなってしまうからです。

そこで、そのような農家の土地を守るために、1991年に生産緑地法が改正されました。そして、翌年の1992年には、改正法にもとづき、農地を対象にした一部のエリアを「生産緑地」に指定したのです。

生産緑地に指定されると、指定された土地を使って建築物や工作物などの建築をすることは原則的にできなくなります。

結果的に、市街化区域内で農業を営んでいた人は、自分の土地が宅地化されず安心して農業を続けることができるようになったのです。

これが「生産緑地の指定」の歴史と概要です。

 

【生産緑地指定の条件や期限は?】

生産緑地の指定により、農家は引き続き農営を行うことができるようになりました。

しかしその指定に関してはいくつかの条件があります。ポイントをまとめました。

 

【指定に関してのポイント】

1

農地等として管理しなくてはならない

2

宅地の造成、建築物の新築については市町村長の許可が必要

3

生産緑地として告示された日から30年が経過した場合には市町村長に買取請求できる

 

これらをまとめると、

「生産緑地に指定されたら、30年間は農地としてのみ利用して、30年後は市町村長に買取を請求できる。」ということになります。

【生産緑地に指定されるとどうなるの?】

生産緑地に指定されることにより、土地所有者は主に税金面での優遇を受けることができます。

具体的な優遇措置は下記になります。

 

(1)固定資産税の減額

不動産を所有していると固定資産税が課税されます。

この固定資産税の算出方法は、公示価格のおよそ7割の価格に設定されるといわれています。

不動産の評価方法は「不動産からどれほどの収益を生み出せるか」に重点をおきます。

例えば、東京都心部の土地は、信じられないほどの坪単価で取引されていますが、それは、その土地に高層ビルや高層マンションを建築することで、より多くの人の集客や居住を見込むことができるからです。これが収益性の高い土地の例です。

しかし、人口5万人ほどの小さい町で、高層ビルやマンションを建築したとしても、実際に利用できる「人」自体がいないため、建築しても無駄になってしまいますよね?これが収益性の低い土地の例です。

つまり土地の価格というのは、その土地が生む収益力に左右されるのです。

以上を踏まえて話を戻します。

一般的に「宅地」と「農地」では、どちらの評価額が高く、どちらが固定資産税が高いと思いますか?

上記の理屈でいうと、答えは「宅地」になります。なぜなら、宅地の方が、建物や工作物を建てることができ、より収益性の高い土地だからです。農地は農地としてしか原則利用できません。

その分、農地は評価が低く、固定資産税も安くなるのです。

しかし農地の中でも例外があります。

下記の農地は、農地であるにも関わらず、宅地と同等の評価で課税されてしまいます。

農地の中でも、宅地同様の評価を受ける2区分

一般市街化区域農地

特定市街化区域農地

これらはどちらも市街化区域内に存在する農地です。

市街化区域とは、すでに市街化されているか、もしくは大体10年以内に市街化が図られる地域として定義されていますので、将来的な宅地化が前提の土地であるという理由から、固定資産税上の評価も宅地と同等になっているのです。

しかし、前述した通り、生産緑地に指定されると、原則的に30年間は農営を続けなくてはなりません。

宅地化できない土地であるにも関わらず、宅地と同等の固定資産税というのは非常に酷です。

そのような理由から、固定資産税の軽減措置を受け、農地に準じた課税措置を受けることができるのです。

(2)相続税の納税猶予制度の利用

相続税の納税には期限があります。

通常は、相続の開始を知った日の翌日から起算し、10ヶ月が納税期間です。税金ですので、延滞してしまった場合は、延滞税が課せられることになります。

ただし、生産緑地に指定されると、この相続税の納税額が一部猶予されます。

猶予される納税額

通常評価した場合の評価額ー農地として評価した場合の評価額

全額が猶予されるわけではなく、農地として評価された場合の税金は納めなくてはなりませんので、間違えないようにしましょう。

 

【生産緑地の2022年問題とは?】

ここまでお伝えしたように生産緑地の指定期間は30年でした。

その間は、土地の市街化を防ぎ、税金面での優遇措置を受けながら農家は安心して農業を続けることができます。

生産緑地法が改正されたのが1991年。次々に生産緑地に指定していったのが1992年です。指定解除になるのは2022年ということになります。

30年後の指定解除の際は、不動産を管轄する農地に買取を請求することが可能です。しかし、行政にも予算がありますので、2022年に一斉に農家が買取請求をしてきた場合、全てを買い取るのは現実的に無理でしょう。

その結果、行政に買い取ってもらえなかった農地が次々に宅地に転用され、不動産売買市場に放出されていくのではないかと予想されています。

【生産緑地の2022年問題が与える影響とは?】

昨今、人口減少が社会問題の上位の常連になり、都心部ですら「空き家問題」が深刻化されています。

それが、生産緑地の解除により、相当数の不動産が売買市場に流れ込んできます。生産緑地に指定されている全ての物件が売却に出ることはないでしょうが、それでも指定されている土地だけで約130,000,000㎡相当です。万が一、それほどの土地が売りに出たらどうなるでしょうか?需要と供給のバランスが崩れ、売り物件が市場に溢れかえります。

そして、そのタイミングを狙っていたかのように、建設会社やディベロッパーが、次々に安く土地を仕入れて、マンションやアパートの建築ラッシュになるかもしれません。

その結果、不動産が供給過多状態に陥り、地価もマンション価格も下がり日本の不動産価格自体が大暴落するのではないかといわれています。

これまで生産緑地は、農地を持っている一部の人のみに関係する問題でしたが、もはや他人事ではありません。2022年以降は、不動産価格が大きく変動する事で、日本中の全ての人にも大きな影響を与えることになるのかもしれないのです。

【まとめ】

2022年以降、不動産価値に大きな変動があるかもしれません。

少なくても法律で2022年に生産緑地が解除されることが決まっている以上、売却に向けて動く農家の方は一定数いるでしょう。

では、2022年以降、不動産が増えて価格が下がるのであれば、不動産の購入を検討している人は、2022年以降に買った方が得なのでしょうか?あるいは、不動産の売却を検討している人は、2022年より前に売った方が得なのでしょうか?

それは一概にはいえません。

なぜならば、2018年現在の日本は、日銀の大幅な金融緩和の影響で、歴史的な低金利が

続いている状態です。金利の面だけ見れば、今が最高に「買い」の状態といえるでしょう。しかし、2022年以降も、この低金利が続いている保証はまったくありません。そのため、2022以降不動産価格が暴落したとしても、金利の状況によっては、期待していた取引水準にとどかない可能性も十分に考えられるのです。

そのため、不動産の売却や購入を検討されている方は、今後の金利変動をにらみつつ、不動産価格の動向を慎重に見極められるか否かが、不動産取引の「成功」と「失敗」の分かれ道になるといえるのではないでしょうか。