2019.05.17

消費税増税で家賃も値上げ!?家賃には関係ないと言えない3つの理由

いよいよ目前に迫った消費税の増税。賃貸不動産という業界では、世間で騒ぐほど消費税の増税が話題になることは多くありません。
なぜなら「消費税と住宅の家賃は無関係」と思われているためです。

ただ厳密に言うと、消費税の増税は賃貸の家賃にも影響します!!

何故か住宅の家賃と消費税は切り離して考えられがちですが、視点を変えると、消費税の増税と家賃は無関係とは言えないのです。
そこで今回は、消費税の増税が家賃にどう影響をするのかを分かりやすくご説明します。
消費税の増税で家賃が値上げされるかもしれない3つの理由と共に、家賃が値上げされたら入居者はどう対処すべきか?
も解説しますので、いざその時のための事前知識としてお読みください。

 

消費税の基本ルールと家賃との関係

消費税の増税による家賃への影響を解説する前に、話の基礎となる「消費税の仕組み」を簡単におさらいしておきましょう。

1.お店で物を買う時に商品代金と一緒に消費税を支払う

2.お店側はお客さんから消費税を預かる

3.確定申告等の決まった時期に、お店の人が預かった消費税を納税する

4.結果として消費者が消費税を納税したことになる

消費税は間接的に納税されることから「間接税」と言いますが、これは学校で習ったのを覚えている方も多いかと思います。
ではこの消費税の仕組みを賃貸の家賃に当てはめるとどうでしょうか。
消費税法では「住居の家賃は非課税」と定めています。
逆にビルの事務所や店舗などの「住居以外として利用する物件の家賃には消費税がかかる」というルールになっています。
これは「住宅は人の生活に最低限必要なものである」という国の配慮によるものです。

すると、今回のテーマである「消費税の増税が家賃に影響する」という話と矛盾すると感じるかもしれません。
ただ大家さんからすると、消費税の増税による家賃への影響を無視するわけにはいかない事情があります。

消費税増税で家賃が値上げするかもしれない3つの理由

住宅の家賃には消費税はかかりません。しかし、大家さん目線で考えると、「消費税が上がっても家賃はそのまま」では収入が減る可能性があります。
そのため、大家さんは「家賃を値上げしたい」のが本音です。
消費税の増税で家賃が値上げになるかもしれない3つの理由について、もう少し詳しい消費税と家賃の関係性に触れながら解説します。

【理由1】大家さんと入居者の立場で違う消費税の影響

賃貸物件に対する消費税の影響は、大家さんと入居者の立場により以下のような違いがあります。

〈入居者〉家賃に消費税はかからないから、今までどおりの家賃で安心
〈大家さん〉家賃に消費税を上乗せできないのに、自分が負担する消費税は上がる

家賃だけでなく、共益費や敷金など住居に関わるものへの消費税は非課税です。
当然、請求する家賃に消費税という名目の費用を上乗せして入居者に請求することはできません。
ただ実際には、消費税の増税分を含めた家賃に値上げすることは可能です。

その理由はこの後の「理由3」でご説明しますが、入居者から得られる家賃収入は上げづらいのに、大家さんが負担する消費税は強制的に増えることを考えると、大家さんが「負担が増えた分だけ家賃を値上げしよう」と考えても不思議ではありません。これが消費税の増税で家賃が値上げになる可能性の一つ目の理由です。

【理由2】最終消費者は大家さんか入居者か

【理由1】の大家さんの立場で「自分が負担する消費税」とありましたが、これは物件の管理費修繕費その他設備費等にかかる消費税を指します。
するとここで、以下のように感じる方がいらっしゃるかもしれません。

・家賃は非課税なのだから、入居者に消費税の増税分を負担させるのはおかしい

・そもそも売上1000万円未満の事業主は消費税が免税なのでは?

 

確かに、上記の意見は一理ありますが、また別の見方や考え方があるのも事実です。
簡単にご説明するため、お店(小売店)と卸業者の関係に置き換えて、改めて消費税の仕組みを見てみましょう。

1.小売店が卸業者から商品を仕入れ(=小売店が卸業者に消費税を支払う)

2.小売店は支払った消費税分を代金に上乗せして販売(=お客さんに消費税を請求)

3.卸業者は小売店から預かった消費税を国に納税

大事なのは「2.」の部分です。
もし小売店が「ウチは1000万円も売上がないから」という理由でお客さんから消費税を預からなければ、「1.」の仕入れの時点で支払った消費税分が損になります。
よって、お客さんから消費税を預かるのが本来の形です。

 

では今度は、上記の小売店を「大家さん」、卸業者を「不動産会社や管理会社」に置き換えて考えてみましょう。

1.大家さんは物件購入や物件管理を行う(=不動産会社や管理会社に消費税を支払う)

2.大家さんは賃貸というサービスを入居者に提供する(ただ、家賃に消費税は上乗せできない)

3.不動産会社や管理会社は大家さんから預かった消費税を納税する

先ほどと違って、「2.」の時点で大家さんは消費税分を損することが確定します。
これは考え方の一例ですが、大家さんも物件管理のために消費税を支払っていますので、それを入居者に転嫁することが間違っているとは言えず、大家さんの売上が1000万円以上かどうかも関係ありません。
つまり、大家さんが上記のことをよく理解していて「最終消費者は入居者である」と考える方だった場合、消費税の増税により家賃の値上げを検討する可能性は十分あり得るのです。

【理由3】借地借家法で認められた値上げの権利

消費税の増税で家賃が値上げするかもしれない3つ目の理由について解説します。
借地借家法という法律では「増税を理由に家賃の値上げを請求するのは問題ない」と定められています。
念の為、借地借家法の第32条の条文を見てみましょう。

第32条(借賃増減請求権)

建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。

引用:e-Gov「借地借家法」

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=403AC0000000090#146

 

識者により見解は違うこともありますが、「租税の増減により」とあるとおり、原則として消費税の増税を理由に家賃の値上げを請求することは可能です。
ただ、あくまで「請求できる(=交渉できる)」という範囲です。
これは、身勝手な値上げで家賃が支払えず追い出されたりすることがないようにするためです。
家賃の値上げは双方の合意があって成立するものですが、逆に言えば、家賃の値上げ請求が法的に認められているという事実は、消費税増税により家賃が値上げする可能性の一つと言えるでしょう。

もし家賃が値上げするならどのくらい値上げする?

では、もし家賃が値上がりすることになったら、家賃はいくらになるのでしょう。
少なくとも「家賃×10%」ではありません。
先程、消費税の増税により家賃が値上げするかもしれない理由として、物件管理の費用にかかる消費税が増えるからとお伝えしました。
つまり、その増えた負担分が値上げされるというのが合理的な考え方です。

分かりやすくするために簡単な計算をしてみましょう。

物件種別:マンション

家賃:7万円

戸数:10戸

管理コスト:20%

上記の物件の年間コストは「7万円×20%×10戸×12ヶ月=168万円」ですので、そこにかかる消費税(8%)は「13.4万円」です。
消費税が10%になると、消費税は「16.8万円」になります。
結果、消費税の増税で「年間で3.4万円の負担増」となりますが、もし大家さんが増加した負担分を上乗せしたとしても、「3.4万円÷12ヶ月÷10戸=1戸あたり約280円」の負担ということになります。
値上げといっても家計を圧迫するほどの額ではないことがお分かりいただけるかと思います。
ただあくまで、家賃を決めるのは大家さん次第です。
物件の管理費やクリーニング費、修繕費等で大家さんの負担も変わりますが、少なくとも「家賃×消費税10%」ではありませんので、その点は安心して良いでしょう。

家賃の値上げ請求で行う「話し合い」のコツ

では最後に、家賃を値上げすると大家さんから言われた場合、どう対応すべきかを解説します。
2章で解説した「借賃増減請求権」という法律ですが、これには続きがあります。
建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。

引用:e-Gov「借地借家法」

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=403AC0000000090#146

この条文を分かりやすくすると以下のようになります。

「家賃を値上げするなら双方で話し合い、話がまとまらないときは裁判による判断とし、判決が出るまでの家賃は今まで同じで良い。ただし、裁判で家賃の値上げが認められたら、その間の家賃の増額部分に10%の利息を付けて払いなさい」
裁判の間の不足分に利息が付くのが納得できない方もいらっしゃるかもしれませんが、法律で決まっていることですので従わざるを得ません。
ただ幸いなことに、上記の条文で「話し合いをしないまま家賃を値上げするということは認められていない」ということが分かります。
よって、もし大家さんから家賃の値上げを要求されたら、以下のようなポイントで話し合いを行いましょう。

・何の費用が増えて家賃の増額を請求しているのか

・家賃を増額しなければいけない理由は何か

・そもそも値上げ額はどういう計算によるものか

・いつの時点のどこの家賃相場と比較して増額を請求しているのか

・これまでと比較して、どのくらい費用が増えたのか

etc…

値上げする額や理由がハッキリしているかどうかが重要で、こちらの経済事情も根拠のある説明を行うことが大事です。
その上で家賃を上げるのか据え置くのか話し合うのがコツです。
単に家賃の値下げを「嫌です」と断るだけでも良いのですが、合理的な話し合いをしたほうが、双方の理解を深めることができ、裁判等の費用負担をしてまで争う必要はなくなるでしょう
「借主有利」と言われる賃貸不動産ですが、家賃の値上げという事例はあまり耳にすることはないものの、消費税10%ともなると、その事情も少々変わることは十分あり得ます。
いざ大家さんから家賃の話が出たときのために、今から心構えと、できれば賃貸に関わる法律の知識を深めておくことに越したことは無いでしょう。