不動産の紛争事例で学ぼう! ③
8年前の殺人事件
告知事項という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
告知事項というのは、取扱い不動産に起きた、事前に知らせなくてはいけない事項のことです。
今回は、どれくらい前の事まで告知すべきか一緒に考えてみてくださいね。
トラブルの経緯は?
不動産業者Aは、建売住宅のための事業用地を更地で購入しました。平成16年の11月のことでした。
この事業用地は約160㎡の広さがあり、建売住宅2棟の建築を予定して購入したものでした。この土地は、元々2筆(登記上で二つに分割されている)の土地で60㎡と、100㎡の土地にでした。。
この2筆の土地には、以前賃貸物件が建築されており、平成8年4月にこの賃貸物件で殺人事件が起きていて、
当時の新聞にも「女性の刺殺死体発見」と掲載されましたが、この賃貸物件は、平成16年5月に契約に先立って取り壊された経緯がありました。
この経緯を買主の不動産業者Aは知りませんでした。
時を経て、平成17年1月。Aが建売住宅の建築を完了させ、販売活動を始め、購入申し込みも順調に入りましたが、近所に住む人から以前に殺人事件があったことを聞き、Aは、慌てて警察に確認をとり、事件が実際に起こっていたことを知りました。購入申し込みもキャンセルとなってしまいました。
両者の主張を検証してみよう
Aは、契約時に既に建物は取り壊されていても「過去に殺人事件があった事は告知事項だ!」と考え、売主に対して瑕疵担保責任を問う損害賠償請求をしました。※瑕疵担保責任というのは、隠れていた欠陥や問題点についての責任のことです。
Aは、契約直前まで存在していた建物で殺人事件があったという事実から、心理的な欠陥は決して風化していないと考えたのです。
これに対して売主も反論します。
殺人事件からは8年も経過している事だし、近隣の心理的影響度も高いとは言えないと主張しました。
しかも、建物は契約時に取り壊されていたのだから、Aの主張はおかしいと考えました。
判決から問題点を学ぼう!
このトラブルの問題点は、二つありました。
・一つは、過去に存在した建物内で起きた殺人事件が、売買目的であった土地の隠れた瑕疵に該当するのかという問題。
・もう一つは、それが隠れた瑕疵に該当するとした場合、買主の損害はどうやって証明するのかという事です。
では、裁判所の見解を解説していきますね。
裁判所は、建物は既に存在していない状況で、どこで殺人があったのかも特定できない状況になってはいるものの、女性が刺されて殺害されると言う残虐性のある事件は、病死や自殺などと比べても大きいと判断しました。
殺人は、一般的な嫌悪の度合いとしても相当大きいと考えられることから、心理的欠陥の要件として認めたのです。
また、新聞等によって広く周知された経緯や、実際にキャンセルが出ていることからも、心理的欠陥が現在も存在するというべきだと判断しました。
結果、裁判所はAの主張を認め、売買代金の5%に相当する損害賠償請求を認めたのです。
まとめ
今回の事例では、売買の目的物の隠れた瑕疵に当たるのは、建物などのように形があるものだけではないということが学べましたね。
自殺があった物件についても同様に心理的欠陥(気分的な理由で価値を下げる要素)が生じるということです。
また、このような案件では、不動産仲介業者による告知義務の調査力によって防げる可能性が高い事例でもあります。やはり、大きな買い物をするからには、安心して任せられる業者選びが大事ですね!